「ノーメジャー・ノーコントロール」(計測できないものは制御できない)
畜産の生産現場でメタンと二酸化炭素を同時に測定できる簡易モニタリングシステムを北里大学獣医学部と共同で開発しました。
このシステムの活用により、牛からのメタン排出量の推定が容易にできるようになり、メタン排出を削減するための研究や取り組みが、様々な場面で加速することが期待されます。
開発の背景
- 国内外で頻発する過去に例のない気象災害や将来の気候変動に対する対策として、その主たる原因とされる温室効果ガスの排出削減の努力があらゆる産業で求められています。FAO(国際連合食糧農業機関)は、反すう家畜からのメタン排出と家畜排せつ物などからの排出を合わせた家畜生産に起因する温室効果ガス排出は、農業排出の約65%に達すると試算しており、畜産業界としても排出削減の取り組みが始まっています。
- 牛のげっぷ由来のメタン排出を削減するために、消化管内の微生物叢を制御する研究や新たな飼料添加物の開発、育種改良に関する研究のほか、家畜排せつ物の処理方法に関する取り組みなどが一部の大学や研究機関で進められています。一方で、畜産現場レベルでメタン排出削減対策を実践するための技術情報は著しく不足しています。
- 食料の安定供給・畜産の持続的発展と地球環境の両立が強く求められているなか、畜産からのメタン排出削減の取り組みを加速させるためには、さまざまな条件下でメタンガスをモニタリングする必要がありますが、高額な分析装置や試験チャンバーの導入が必要となります。
- 呼気中のメタンと二酸化炭素の濃度比を用いて牛からのメタン排出量を推定するスニファー法は、チャンバーなどの大掛かりな設備を必要としない実践的な測定方法ですが、ガス分析計のコストがネックとなり生産現場で容易に取り組める状況にはありませんでした。
開発したメタンと二酸化炭素の同時測定が可能な簡易システム
- 今回開発した『メタンと二酸化炭素の同時測定が可能な簡易システム』は、半導体ガスセンサー、ケーブルと専用のアプリから成り、Windowsパソコンでアプリを起動してメタンと二酸化炭素の濃度をモニタリングするものです。
- 今年7月に開発した簡易メタンガスモニタリングシステム“サーモニ メタン”に、二酸化炭素ガスセンサーを付加したもので、ふたつのガス濃度を同時にモニタリングできるようになります。
- このシステムにより、これまで難しかった様々な条件下でのメタンガス排出量の推定が容易にできるようになり、メタン排出削減のための研究や取り組みが加速することが期待されます。
- この 『メタンと二酸化炭素の同時測定可能な簡易システム』は、北里大学発ベンチャーのライブストックジャパン株式会社が“サーモニメタン CO2プラス”として、研究機関などを対象とした試験販売を2022年12月20日より開始します。
【搾乳ロボットでの測定の様子】
サーモニ メタンCO2プラス” 専用センサー
(左:CO2センサー、 右:メタンセンサー)
・ 専用ケーブルでWindows PC と接続
・ 専用ケーブルは、測定場所の環境に応じて三種類を用意(2m, 10m)
・ センサー裏部に取付用マグネット付
搾乳ロボットにおける測定の様子
・ 個体ごとの呼気中メタン、二酸化炭素濃度を同時に測定
メタンガスモニタリングシステム“サーモニ メタンCO2プラス専用アプリ画面
期待される効果と今後の取り組み
近年、食料の安定供給・畜産の持続的発展と地球環境の両立が強く求められるようになってきました。畜産現場レベルでメタン排出削減対策を実践するための技術情報が著しく不足するなか、本システムの活用によって牛からのメタン排出量の推定が畜産現場レベルで容易に実現できるようになれば、様々なアプローチによるメタン排出削減対策を実践することが可能となります。
農場で発生するメタンガスをモニタリング(計測)し、何らかの対策によってメタン排出量をコントロール(制御・抑制)することができれば、それによって得られた畜産物はまさに“エシカル商品”と言え、地球環境と両立する畜産の持続的な発展に寄与するものと考えます。
牛からのメタン排出削減は、一見、環境対策としてのみ捉えられがちですが、バイオマスエネルギーにもなるメタンの排出は、牛側からすると ”エネルギーの損失“ とも言えます。呼気からのメタン排出削減は、体内でのエネルギーバランスの改善≒生産効率の改善(乳量、増体)につながりますので、生産者側としても、飼料利用効率が改善することによる飼料価格高騰対策になります。
生産性の向上と持続性の両立こそが、今後の畜産の発展に不可欠であると認識しています。
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